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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)218号 判決

東京都杉並区堀ノ内三丁目四四番二号

原告

大城正男

右訴訟代理人弁護士

鈴木紀男

田口尚真

東京都杉並区成田東四丁目一五番八号

被告

杉並税務署長

内藤近義

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

大道友彦

光広龍夫

長沢幸男

荒木慶幸

細金英男

右当事者間の所得税決定処分および無申告加算税賦課決定処分取消請求事件について次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者双方の申立て

(原告)

(一)  被告が原告に対してなした昭和三八年分処所得税決定分および無申告加算税賦課決定処分を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

二  原告の請求原因

(一)  被告は、昭和四二年九月一六日付で原告に対し、原告が昭和三八年に八、六八八、八四〇円の譲渡所得の金額があるのにこれを申告しなかつたとして所得税額三、四四三、〇〇〇円の決定処分および無申告加算税額三四四、三〇〇円の賦課決定処分をした。

(二)  原告は、昭和四二年一〇月九日被告に対し右各処分につき異議申立てをしたところ、被告は昭和四三年二月一五日右処分の一部をいずれも取消して譲渡所得の金額七、八三二、六七七円、所得税額三、〇一〇、五〇〇円、無申告加算税額三〇一、〇〇〇円と決定した。

原告はさらに昭和四三年三月一四日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同年六月二四日付で給与所得金額二三二、〇〇〇円、譲渡所得の金額七、七九七、八五七円合計総所得金額八、〇二九、八五七円ありとして棄却の裁決がされ、同年八月三日右裁決書謄本の送達を受けた。

(三)  しかし、被告のした本件課税処分は違法なので、その取消しを求める。

二  被告の答弁および主張

(一)  請求原因事実のうち本件課税処分が違法であるとの主張は争うが、その余は認める。

(二)  審査裁決を経た本件課税処分の給与所得の金額ならびに譲渡所得の金額の計算根拠は、次のとおりである。

1  給与所得の金額二三二、〇〇〇円

原告が昭和三八年中に訴外有限会社友利洋装店から支給された給料三〇〇、〇〇〇円の収入金額から給与所得控除額六八、〇〇〇円を控除した金額である(昭和三九年法律第二〇号による改正前の所得税法(以下旧所得税法という。)第九条第一項第五号)。

2  譲渡所得の金額七、七九七、八五七円

次の(1)収入金額から、(2)取得価額および(3)譲渡に関する経費を控除した金額一五、七四五、七一四円から、さらに一五〇〇〇〇円を控除した金額一五、五九五、七一四円の一〇分の五に相当する金額である(旧所得税法第九条第一項第八号および同項本文)。

(1) 収入金額 一八、〇〇〇、〇〇〇円

原告が、原告所有の東京都目黒区下目黒一丁目一二〇番地五所在の土地六九・四二平方メートル(二一坪)および建物一二一・八八平方メートル(三六・七坪)(以下右土地建物を本件といい、右建物を本件建物という。)を昭和三八年六月二六日訴外三笠製菓株式会社に対した譲渡した金額である。

(2) 取得価額四四一、九六一円

旧所得税法第一〇条の五(昭和二七年一二月三一日以前に取得した資産の取得価額の特例)に基づき計算したものである。

なお、原告が本件物件を取得したのは昭和二二年一〇月二七日であり、原告は、審査裁決に至るまで同条第一項括弧書きの証明はしていない。

(3) 譲渡に関する経費、一、八一二、三二五円

左の(イ)および(ロ)の合計金額である。

(イ) 家屋明渡訴訟費用 六七八、五五五円

本件物件譲渡のために要したと認められる弁護士費用五五〇、〇〇〇円および執行費用一二八、五五五円の合計金額である。

(ロ) その他の経費 一、一三三、七七〇円

本件物件譲渡のため仲介人に支払つた仲介料一〇〇、〇〇〇円および居住者小山力に支払つた立退料一、〇〇〇、〇〇〇円ならびに司法書士に支払つた登記料三三、七七〇円の合計金額である。

三  被告の主張に対する原告の認否および反論

(一)  被告主張の本件課税処分の各所得金額の計算根拠については、次記(二)に関するものを除き、その余はすべて認める。

(二)  譲渡所得の金額は次の各金額を控除して算定すべきであるのに、本件課税処分においては、その一部だけしか控除しなかつたのは違法である。

1  取得価格 二、三〇〇、〇〇〇円

本件物件の取得額は、被告主張の四四一、九六一円ではなく、昭和二二年における本件物件の取得価額三〇〇、〇〇〇円と昭和二八年中において本件建物の改築に要した改良費用の額二、〇〇〇、〇〇〇円との合計額二、三〇〇、〇〇〇円とすべきである。

2  譲渡に関する経費 七、一五三、四七〇円

原告ともと原告の妻であつた山村文子との間において本件物件の所有権の帰属等に関し、かねて係争中のところ、昭和三七年一二月一七日東京高等裁判所において右両名間の子の大城修外二名が利害関係人として参加のうえ、右訴訟当事者間において和解が成立したのであるが、右訴訟の遂行および執行ならびに和解条項の履行等のために支出した次の金額の合計である。

(1) 執行費用 二一九、七〇〇円

被告主張の一二八、五五五円のほか、原告が谷口新に対し昭和三八年六月一五日に支払つて一〇〇、〇〇〇円を考慮すれば、少なくとも二一九、七〇〇円の執行費用を要したことになる。

(2) 弁護士費用 一、一〇〇、〇〇〇円

被告主張の五五〇、〇〇〇円のほか、原告が弁護士村木千里、同藤井英男の両名に対し昭和二九年から昭和三七年までの間に支払つた五五〇、〇〇〇円があり、その合計は一、一〇〇、〇〇〇円となる。

(3) 前記和解に基づき原告が山村文子、大城修外二名に対し支払つた本件物件からの立退料四、〇〇〇、〇〇〇円

(4) 右(3)の立退料を支払うために佐藤一馬から借入れた金員に対する利息七〇〇、〇〇〇円

(5) 被告主張の仲介料、立退料および登記料一、一三三、七七〇円これは被告の主張する金額のとおりである。

3  原告が居住用財産として東京都杉並区堀の内一丁目一〇八番、宅地三八坪三合外宅地二筆、同地上居宅一棟を取得したことにより、租税特別措置法(昭和三九年法律第二四号による改正前のもの、以下同じ。)三五条に定める居住用財産の買換えの場合における譲渡所得の課税の特例の適用を受けるべき金額五、七五七、一〇〇円(取得価額五、五〇〇、〇〇〇円と仲介手数料二五七、一〇〇円との合計額)もつとも、原告は右取得に関して所定の確定申告書を提出しなかつた。

四  原告の右反論に対する被告の認否および再反論

(一)  取得価額について

原告が本件物件を昭和二二年に取得したことは認めるがその余は争う。

(二)  譲渡に関する経費について

原告ともと原告の妻であつた山村文子との間において、本件物件の所有権の帰属に関し係争中のところ原告主張の日時、右両名間の子の大城修外二名が利害関係人として参加のうえ、右訴訟当事者間に訴訟上の和解が成立したことは認める。

1  執行費用のうち、原告が谷口新に対し、昭和三八年六月一五日に一〇〇、〇〇〇円を支払つたことは不知。

2  弁護士費用のうち、被告主張の金額のほかに、原告が村木千里、藤井英男に対し、昭和二九年ないし昭和三七年中に五五〇、〇〇〇円を支払つたことは不知、同支払が譲渡に関する経費であるとの主張は争う。

3  和解金四、〇〇〇、〇〇〇円を原告が山村文子らに支払つたことは認めるが、借入金利息七〇〇、〇〇〇円を原告が佐藤一馬に支払つたことは不知。右和解金および借入金利息が譲渡に関する経費であるとの主張は争う。

(三)  旧所得税法第九条第一項第八号に定める「譲渡に関する費用」とは、譲渡のための周旋料、登録料、借家人を立退かせるための立退料等のような譲渡を実現するため直接必要な支出をいうのであつて、当該譲渡資産の維持又は管理に要する支出はこれに含まれないのである。

ところが、原告が本件譲渡に関する費用であると主張する前記和解金はむろんのこと、前記村木千里らに支払つたという弁護士費用五五〇、〇〇〇円および借入金利息は、仮りに原告が支払つた事実があつたとしても、これらの支払はいずれも本件譲渡がなくとも要した支出であつて、本件譲渡に直接必要な費用でないことは、次の事実から明らかである。

1  前記和解金四、〇〇〇、〇〇〇円は、昭和三七年一二月一七日東京高等裁判所において原告らと山村文子らとの間に和解で成立し、同和解条項第二項に基づき原告が支払つたものである。そして、右和解条項の金員の支払者である原告および同金員の受領者の代表格である山村文子の両名とも、右和解金は山村文子に対する離婚に伴う慰籍料と両名間の子修、悠子および紀子の三人の養育費であることを充分認識したうえ、右和解を成立させ、右和解条項に定める金員の授受が履行されたのである。

したがつて、慰簿料、養育費として支出された右和解金は、原告の家族内の紛争を解決するための支出であつて、本件譲渡に直接必要な支出ではない。

2  前記借入金利息七〇〇、〇〇〇円は、原告が前記慰簿料および養育費の支払資金調達のため借りた金員に対する利息であるから、仮りに右借入金利息を支払つた事実があるとしても、前記和解金と同様本件譲渡に直接必要な支出ではない。

3  前記弁護士費用五五〇、〇〇〇円は、昭和三七年一二月一七日和解成立によつて終了した訴訟のために支出した費用であり、その訴訟は、所有権保全または家族内の紛争の解決を目的としたものであるから、本件譲渡に直接必要な支出ではない。

(四)  租税特別措置法第三五条の適用についての原告主張については、原告が居住用資産を合計五、七五七、一〇〇円をもつて取得したことは認めるが、同条を適用すべきである旨の主張は争う。

そもそも、租税特別措置法第三五条に定める居住用財産の買換えの場合における譲渡所得の課税の特例の適用を受けるためには、同条第三項および同法施行令(昭和三九年政令第七三号による改正前のもの以下同じ。)第二四条第六項に定めるとおり、確定申告を提出することがその適用のための要件となつている。ところが、原告が確定申告を提出しなかつたことは原告の認めるところであるから、その適用要件を欠き、同法条を適用する余地はまつたくない。

四  証拠関係

(原告)

甲第一ないし第三号証、第四、五号証の各一、二、第六、七号証、第八号証の一ないし四、第九号証の一、二、第一〇号証第一一、一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし六を提出。

証人藤井英男、佐藤一馬、若井幸作の各証言、原告本人尋問の結果を援用。

乙号各証の成立をすべて認める。

(被告)

乙第一ないし第四号証を提出。

証人萩谷修一の証言を援用。

甲第一三号証の四の成立は不知、その余の甲号各証の成立はすべて認める。

理由

一  原告が昭和三八年六月二六日本件物件を代金一八、〇〇〇、〇〇〇円で他に譲渡したことは当事者間に争いがなく、本件の争点は、もつぱら、被告が右の譲渡による譲渡所得の金額を算定するにつき前記事実欄三(二)ないしの各金額について一部控除しなかつたことの適否であるから、以下順次、右の各金額についてその適否に関し判断する。

1  取得価額について

(1)  原告が本件物件を昭和二二年に取得したことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件物件を事業の用に供していたことが認められる。したがつて、本件物件については旧所得税法第一〇条の五に基づいて計算した額をもつて取得価額とすべきところ、本件課税処分について右規定に基づき計算した四四一、九六一円が取得価額として控除されていることは当事者間に争いがないから、前記三〇〇、〇〇〇円を取得価額として控除すべきであるとの原告の主張は失当である。

(2)  証人若井幸作の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告が昭和二七、八年ころから本件建物を改築したことが認められるけれども、右の改築に二、〇〇〇、〇〇〇円を要した旨の原告本人尋問の結果は証人若井幸作の証言に照らして措信できず、他に右費用額を認定するに足りる的確な証拠がない。

2  譲渡に関する経費について

原告ともと原告の妻であつた山村文子との間において、本件物件の所有権の帰属等に関して係争中のところ、昭和三七年一二月一七日東京高等裁判所において右両名間の子である大城修外二名を利害関係人として参加させたうえ、右訴訟当事者間に和解が成立したことは当事者間に争いがない。

(1)  執行費用について

原告が谷口新に対し昭和三八年六月一五日に一〇〇、〇〇〇円を支払つた事実に関しては、原告本人尋問の結果中に右主張に沿う部分があり、また右尋問の結果によつて原告本人が作成したメモと認められる甲第一三号証の四に同旨の記載があるけれども、いずれも右事実を認めるに充分ではなく、他に右事実を認定するに足りる的確な証拠がない。

(2)  弁護士費用について

証人藤井英男の証言、原告本人尋問の結果によると、原告が昭和二九年から昭和三七年までの期間中山村文子との間の前記訴訟に関して、被告が本件課税処分にあたつて控除した被告主張の弁護士費用五五〇、〇〇〇円のほかに、弁護士村木千里および同藤井英男に対し金員を交付していることが認められ、原告本人尋問の結果中には右金員の総額は五五〇、〇〇〇円ないし六〇〇、〇〇〇円である旨の供述部分がある。しかし、右尋問の結果によつてみても、右金員は前記のような長期間必要の都度何回にもわたつて交付されたものであり、当初から領収書を徴さず、交付した日時、金額も明確ではなく、前記総額については確たる徴証もないことが窺えるから、前記供述部分はたやすく採用できない。しかも、右尋問の結果によると、前記金員のうちには弁護士費用以外のものも含まれていることが認められるところ、そのうち弁護士費用が幾何であつたかについては、これを認めるに足りる証拠がまつたくない。

けつきよく、原告の前記主張事実は認定することができないものといわざるをえない。

(3)  前記和解条項に基づき山村文子、大城修外二名に対し支払つた本件物件からの立退料について

前記争いのない事実と成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一、二号証、同第四号証および証人藤井英男の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、本件物件は原告の所有であつたが、昭和二九年四月、当時原告の妻であつた山村文子が贈与を原因として自己名義に所有権移転登記をしたうえ、登記名義をさらに他に移転したので、原告は右登記が不知の間になされたものであるとして同人らを被告として所有権移転登記抹消登記手続等請求の訴えを提起して係争中であつたところ、前記日時、前記当事者間において大要次のとおりの和解が成立したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

イ 本件物件の所有権が原告に存することを確認する。

ロ 原告は、山村文に対し一〇〇〇、〇〇〇円、大城修外二名に対し二、五〇〇、〇〇〇円、以上四名に対し五〇〇、〇〇〇円を支払う。

ハ 前項の支払いに次のとおりとする。

(イ) 山村文子に対する一、〇〇〇、〇〇〇円大城修外二名に対する支払金の内金一、〇〇〇、〇〇〇円は昭和三八年二月二五日限り、(ロ)残額二、〇〇〇、〇〇〇円は昭和三八年三月三一日限り支払う。

ニ 山村文子は原告に対し前項(イ)の支払いを受けると同時に本件物件につき所有権移転登記手続をする。

ホ 山村文子、大城修外二名は原告に対し前記(ロ)の支払いを受けると同時に本件建物から退去し本件土地を明渡す。

ヘ 各当事者は本和解条項以外他になんらの債権債務のないことを確認する。

ところで、原告は、右和解条項ロに定める合計四、〇〇〇、〇〇〇円の性質が、山村文子、大城修外二名に対する本件物件からの立退料であるということを前提として、右金額は本件物件の譲所得額の算定にあたり控除されるべき旧所得税法第九条第一項第八号所定の「譲渡に関する経費」にあたると主張する。

一般に、右の「譲渡に関する経費」とは譲渡のための周旋料、登録料等のような譲渡そのものに関連して直接必要な支出と解すべきであつて、借家人を立退かせるためのいわゆる立退料も課税上右の経費にあたるものとして取扱うのが相当というべきである。

しかし、前記四、〇〇〇、〇〇〇円が立退料であるとの原告の前記主張事実は、前記和解条項の記載のみからしては、これを認定することができない。また、原告本人尋問の結果のうち、右四、〇〇〇、〇〇〇円の全額が立退料であるとの部分および証人藤井英男の証言のうち、前記和解条項ロの末尾に定める「四名に対する五〇〇、〇〇〇円」が立退料であるとの部分は、同証人のその余の証言および前掲乙第二号証の山村文子の陳述記載に徹して、いずれもたやすく採用することができず、他の原告の前記主張事実を認めるに足りる証拠は存しない。

かえつて、前掲各証拠を総合すると、原告と山村文子とは前記和解成立当時すでに協議離婚し、両名の子である大城修外二名は原告のもとを離れて山村文子と生活を共にすることとなつていたのであつて、前記四、〇〇〇、〇〇〇円の支払約定の意図したところは、原告と山村文子らとの身分関係につき右のような合意がなされていたことに伴い、本件物件の帰属、山村文子に対する慰藉料、大城修外二名に対する養育費等をも含めて過去の紛争および将来の一切の問題について総額四、〇〇〇、〇〇〇円をもつてする金銭的解決にあつたものであり(家庭裁判所の管轄事項が含まれているため、和解条項に右の趣旨を明示しなかつた。)右四、〇〇〇、〇〇〇円の取得区分を前記和解条項ロのように定めた根拠については当事者間に確たる合意が存しなかつたものと認めるのが相当である。

そうとすれば、右四、〇〇〇、〇〇〇円は、その全額についてはいうまでもなく、特定された一部についても、これを立退料と認めることはできないから、前記の「譲渡に関する経費」にはあたらないものといわざるをえない。

(4)  右(3)の立退料を支払うために佐藤一馬から借入れた金員に対する利息について

原告が、仮りに前記(3)の金員を支払うために佐藤一馬から資金を借入れてその利息を支払つたとしても、前記(3)の支出が「譲渡に関する経費」と認められないことは前記のとおりであるから、右主張の利息もまた「譲渡に関する経費」にあたらないことは明らかというべきである。

3  租税特別措置法第三五条に定める居住用財産の買換えの場合における譲渡所得の課税の特例の適用を受けるべき金額について

右規定に基づく課税の特例は、同条第三項および同法施行令第二四条第六項によれば、同項所定の除外事由にあたらないかぎり、所定の確定申告書を提出しない場合には、適用しないとされていることが明らかである。しかるに、原告において右申告書を提出しなかつたことは、その自陳するところであり、かつ、右の除外事由に該当する事実に関し主張、立証の存しない以上、前記特例の適用を受けることはできないものというほかはない。

二  以上によれば、原告が本件課税処分について主張する違法事由は、すべてこれを認めることができないので、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 内藤正久 裁判官 佐藤繁)

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